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お姫様の行方
音楽が聴こえない。
オルゴールの音色が無い。
ゴウゴウと吹き荒れる風。
何かがぶつかり合う音。
灰色の景色。
それが自分達を包み込む何もかも。
こんな状況でも、時間には外で踊らされるのだ。なんと滑稽な事か。なんと辛い事か。
それでも、隣にいる彼女はいつものように笑顔を絶やさず、美しく回るのだろう。
ブラウンのウェーブがかった艶やかな髪。
エメラルド色の瞳。
キラキラと輝く笑顔。
純白のドレスをふわりと靡かせ、楽しそうに踊る。
彼女は、マリアは俺の光そのものだった。
マリアがいれば、このつまらない永遠のような毎日も苦痛ではなかった。
あの日までは。
嵐の日だった。
マリアが消えた。
風に煽られ、俺達の踊るステージに飛んできた物が当たって、壊れた。
落下した俺と違い、風に飛ばされたマリア。
最後に見たら彼女は、泣いていたように思う。
人形に涙なんて、出るはずないのだが。
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