至極当然の隣人

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至極当然の隣人

『高校デビュー』本来の意味とは違うのだろうけれど、高校生になって初っ端の昼休み、私はお弁当を両手で抱えながら、少し戸惑いの渦中にいた。  きっと、高校生の大多数がこの難問ともいえる課題に日々取り組んでいると思う。 (だ、誰とお弁当を一緒にすれば……?)  うっかり先にお手洗いに行ってしまったがために、完全に出遅れてしまった私は、まだ一人きりでいた。あろうことか私の机はクラスメイトに借り出されてしまい、既に私の諸定位置にさえない。 (もう、こっそり隅っこで食べようかな……) この難問に匙を投げようとした私は、小さな溜息を零してクラスの隅を見ると、ここにも一人でお弁当を広げる男子を見つける。 (君が女の子なら、速攻でお誘いしたところなのに……) 恨めしそうに彼を見ていたせいか、うっかり目が合ってしまう。 「そんな目で見てもやらないしな」 色鮮やかな黄色い卵焼きをお箸で串差す彼に私は苦笑してしまう。 「いいね、伊藤君は食欲全開で」 彼は目をパチクリさせる。 「お前、すげぇな。よく俺なんかの名前覚えてたな……。知り合いだったっけ?」 「クラスの一番先頭の人くらいは覚えられるもんだよ」 名簿順で『伊藤』はトップバッターだ。 「ちなみに私は世良。この一年よろしく」 「おう」 「喰わねぇの?」 私のお弁当を箸で指し示す。 「食べるよ。場所さえあればね」 「あるじゃん、ん」 彼は至極当然のように顎で自分の隣の空席を指す。
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