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二章【真面目な仕事精神で】
「おい、こっち」
神殿近くの繁華街で、目をつぶっているはずのカルシンが、すいすいと人ごみを進んでいく。
喧騒の中でほとんど聞き取れないほどの声でスャムを呼ぶカルシンは何かを探しているようだ。
「馬鹿、お前が先に行ったら変装の意味が」
「でも、お前道わからんやろ?」
「そりゃあ…」
逆になぜお前が知っているのかと不満そうに口を尖らせたスャムは、息を整えようと立ち止まった。
「カルシン、お前何を探してるんだ?さっきから神殿の周りをずっとぐるぐる」
そんな疑問を、急かすようにカルシンは遮った。
「時間がないんやって。とにかく、ついてきてくれ」
何に焦っているのか分からないが、スャムはおとなしく歩き出す。
短い付き合いだけれど、スャムはすっかりカルシンを認めていた。
カルシンの常人離れした身体能力は、聴力や視力にも及び、鍛え抜かれたスャムを遥かにしのいでいる。
正直、スャムはカルシンより優れている部分が見つからないと嘆いているほどなのだ。
だが、認めはしても信頼はしないのが密偵としての意地である。
スャムはまだカルシンに本名すら教えていないのだから。
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