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続いて、二人分の声が長い廊下にこだまする。
「ブルノール、あのままではもたんぞ。
つまらんん者に構っている暇があるのならば、お体に気を使って欲しいものだ」
「テノール、あの方にはあの方なりのお考えがあるのさ。
俺たちみたいなのが口を出しても、何の意味もないだろうよ」
「ブルノール、そうは言っても見過ごせないぞ。
俺が祭司として働き始めてもう半年。お見かけするたびに体調が悪くなっている。
この国唯一の指導者であるあの方に、今倒れられると困る!」
「テノール、無理はいうものではないさ。あの方は今やらねばならぬことが山の如しなのだよ。
僕らは黙って、あの方の行く末を見守るべきだろう?」
高低差の激しい声が間断なく続く。
低い声の男はどうやら大司教の体調を気遣っているようだが、つまらん者とは一体誰だ?と、咄嗟に柱の陰に隠れたカルシンとスャムは首を傾げた。
そんな二人に気づくそぶりもなく、話は続く。
「テノール、ところでそのつまらん者っていうのは一体どんなやつなのさ。
大司教様のお気に入りなのだと噂では聞いたけれど、本当なのか知りたい」
「おおブルノール。お前が他人に興味を示すなんて、俺は嬉しいぞ。
けれどあいつは本当に気に入らないやつだ。
大門でもたもたしている所を捕まえた時から、食えないやつだとは思っていたが、異教徒なんぞになぜ大司教様が気をかけるのか、全くわからない。
お前も兵の仕事が終わった後、神無の間に来るといい、あいつの辛気臭い顔が見れるぞ」
異教徒、という言葉にスャムとカルシンは敏感に反応した。
男、恐らく兵と祭司と思われるふたりの立ち話に、スャムはさらに聞き耳を立てる。
しかし次の言葉は聞こえず、代わりにばしっと何かを叩く音が聞こえた。
「さ、祭司長殿!」
慌てたような声とともに、怒気をはらんだ怒鳴り声が轟いた。
「馬鹿者!職務中に何をしている!
いくら兄弟だからと言って、神殿内で立ち話など以ての外!」
「申し訳ありません!」
その後、スャムとカルシンが唖然と見守る中、テノールブルノール兄弟は延々と説教されたのだった。
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