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三章【なし崩しの偶像崇拝】
この神無の間からは、空がよく見える。
透き通るような雲に、ちらちらと太陽が覗き、それら全てを包み込むような空は、本当にどこまでも続いているのだ。
もしここで死んだら、鳥にでも生まれ変わりたいな、なんて空想に浸りながら、アウルオンはその時を待った。
そして、夜告鳥が今日も夜の訪れを鳴く。
「こんばんは、元気ですか?」
そんな言葉とともに、静かに部屋に入ってきた少年は、アウルオンに笑いかけた。
「君は…元気ではなさそうですね」
おや、と少年は声を上げた。
医者って、見ただけで人の体調不良がわかるんですか、と軽口を叩きつつ、少年はお気に入りの机に腰掛ける。
日に日に陰って行く少年の生気は、誰が見ても明らかだった。
「で、どうです。決まりましたか」
心配そうなアウルオンの視線を振り切るように、少年はいつもの話題を持ち出す。
アウルオンが捕らえられてから毎日、少年はこの質問をするためだけに通っている。
しかし、そう簡単に答えは出るはずもなく、煮え切らない返事に少年が諦めるという形で、会談はいつも幕を閉じるのだ。
「わからないと言っているじゃないですか」
自分の命はこの小さな少年に握られている、と考えると迂闊なことは口に出せない。
頑ななアウルオンの姿勢に嫌な顔一つせず、少年は背筋を伸ばした。
「僕が、なぜ神無教なんて名前で布教し始めたと思います?」
唐突な話題を持ち出した少年は、机から腰を浮かせた。
そのままエンセライルを一望できる四角い窓へ向かい、人々がせかせかと働く街の様子を微笑ましく眺める。
しかし、にたりと音がつくほど引き上げられた口元は、目に見えて不穏な兆しを表していた。
「僕はこの国を作った時、神を心の中心においた完璧な人間の作り方を熟考しましたよ。
幼い頃から神の存在を説かれてきた僕ですら、揺らぐことはありますからね。
目に見えないものを人は信じたがらないでしょう?
ですから、僕自身が肩代わりしちゃえばいいのかなと。そう考えました。
見えるものにすげ替えればいいと思いましてね」
淡々と語る少年。隠しきれずに漏れる笑みが、更に少年の狂気を際立たせていた。
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