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「…い。お…!おーい!」
あまりの大声に、スャムの脳天から全身へびりびりと震えが走った。
「なん…なんだよ」
何事かと身を起こしたスャムは、その騒音の出所を確認してまた、布団に体を沈ませた。
「五月蝿い。どうにかならねぇのか、お前のその声は」
「ならへんな」
「ならねぇのかよ」
軽口を叩きながら、身支度をする。
そう、今日は神殿へ初めて足を運ぶという大仕事が待っているのだ。
一ヶ月に渡り、洗脳されている人間たちの行動心理を探ってきた。
ごく普通の人たちだ。家族同士でわいわい食事をしたり、兄弟で少し仲が悪かったり。
ただ少し、大司教への忠誠心が高すぎるというだけで、洗脳されていると言われても気づかないほどに自然に、精神への縛りが行われている。
幾度かボロを出す場面もあったが、お互いの助け舟によって乗り越えた。
見えないところの洗脳というのは、真似るのがとても大変なのだ。
ふとしたところに縛りがあり、うっかり口を滑らせれば「地下行く?」と遊びに誘うような感覚で声をかけられる。
これから行く場所は、このエンセライルの中心といっても良い神殿。
失敗すれば地下送りでは済まないだろう。
そしてカルシン曰く、大司教はスャムのことを知っている。それならば尚更見つかるわけにはいかない。
仕事柄たくさんの恨みを買っているスャムにとって、最も恐るべきは復讐。
人間の原動力は憎しみなのだから。
「準備、できたぞ」
「おし。じゃ、いくかー」
民衆に紛れるための普段着を身にまとい、砂よけの布を顔にまく。
カルシンの特徴的な目は隠しようがないので、盲目という設定で終始杖をついてもらう事になった。
この世界では、空色の目はとても珍しい。
大抵はスャムのような鳶茶色やアウルオンのような白茶、真焔帝国の人々のような真紅の瞳が主流だ。
加えて少し色素の薄い、ともすれば金色ともとれる髪と、整った容姿はどうあがいても人目をひく。
準備中に投げかけられた、お前すぐばれそうだな、というスャムの言葉に、カルシンは複雑そうに頷いたのだった。
今日も空は快晴である。
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