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「大司教様、こちらです」
そんな言葉とともに、かつてアルウオンが敬愛してやまなかった、白い外套の少年が部屋へと入ってきた。
神無の間と呼ばれるここは、信者たちの間では有名で、大司教様が天からいただいた神の遺物が祀られている。
アルウオンの位置からはよく見えないが、その遺物があるのだろう神無の間の奥からは、確かな威圧が放たれていた。
ふわり、という擬音が聞こえるほど軽やかに少年は外套を脱ぎ捨て、アウルオンの近くへと歩いてくる。
微笑を浮かべながら、アウルオンの事を見つめた少年はしかし、次の瞬間にはふい、と目をそらした。
「貴方は、神を信じますか」
少し哀愁を滲ませた唐突な問いに、アウルオンはおもむろに首を傾げた。
「…君はどうなんです、大司教様」
少し考え込んだ少年は、ゆっくりと口角を上げた。
「さすが、天才医師は言うことが違いますね。…僕は信じますよ」
皮肉交じりに吐露された答えに、アウルオンはぴくりと眉を動かす。
そんな様子を気にすることなく少年は、さらに言葉を続けた。
「この世の痛みを人間に与えているのは神ですよ。ひどく理不尽で、最低だ」
けれど、と息を継ぐ。
「同時に神は僕らに、幸せを与えてくれている。
人間は、この二つがあってこそ存在できるのですよ。
これが、僕の故郷の教えです」
浅黒い肌に似合う薄茶の目が、恍惚とアウルオンを見つめている。
「さあ、僕は答えましたよ。貴方はどうなんです」
今、神無の間にはアウルオンと少年の二人だけ。少年についてきていた祭司の一人は、既に何処かに行ってしまったようだ。
居心地良さそうに少年は近くの机に腰かけた。
「行儀悪いなんて言わないでくださいね。格好つかないですから」
そう言ってにこやかにアウルオンを観察する少年は、気まずい静寂を楽しんでいる風でもある。
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