一章【醜い願いは奥底に】

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そうして夜の帳が下りる中、揺らめく夕日が時の流れを告げた。 気づけば夜告鳥(カムイバル)の鳴き声も聞こえない。 重い空気を裂いて、やっとアウルオンが口を開いた。 「私は…わからなくなりました。きっと、君に従っていた頃の私は盲信していたのでしょうけれど、今はどちらでもありません。 子供の頃は信じていませんでしたよ。 人の生死は医者が左右するものだと思っていましたし、運命を決めるのは己自身だと言う傲慢な考えが主軸にありました」 ほう、と吐息を漏らした少年を視界の端に捉えつつ、アウルオンはさらに続けた。 「けれど、このエンセライルで医者として生きてきたこの数年で、宗教という存在がいかに人の心を支えるかがよく分かりました。 絶対的存在、君は神というのだろうけれど、それを力に生きることは何よりも楽ですよ。現に私の診察を受けにきた人達は皆、等しく幸せそうでした」 その言葉を聞き、少年はぱっと目を輝かせる。 「それです!僕が目指しているのはそういう国だ!」 突然勢いづいた少年に、アウルオンは少し驚いた。 先ほどまでの、陰鬱で人を試すかのような態度から明るい雰囲気に一変した少年は、自分の構想を大袈裟に語り出した。 「人間は拠り所があるほど強くなれる。僕らは皆、人生に生きがいを求めているのですよ! ならば、仕事や恋や創作に打ち込めない人達はどうするんですか。この人生は無駄だ、生きる価値もないなどと嘆く彼らの生きる意味を作ってあげるのです! 等しく神に信仰を捧げれば、人間は迷う必要もない。神のために生きれば、生きがいなど必要ないでしょう。 人類が皆平等に幸せになれる国とは、神を信じる国民で結成されるべきだ!でしょう?」 ぜえぜえと肩で息をする。 目を丸くしたアウルオンに狂気的に笑いかけた少年はしかし、次の瞬間には激しく咳き込み体を丸くした。
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