一章【醜い願いは奥底に】

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「大司教様!」 足をもつれさせ、慌てながら祭司が部屋に入ってきた。 「早く、お休みになってください」 手を貸そうとする祭司を押し止め、少年はアウルオンに向き合う。 額には脂汗が浮かび、ひゅうひゅうと呼吸の音が部屋に響く中、少年は高らかに叫んだ。 「待ちましょう!信じるか否か、貴方は大いに迷うといい。 貴方自身の答えが出るまで、僕は待ちましょう!」 それをわが国民の意思としましょう、と。 掠れた声でなおも笑う。 祭司が少年を部屋から連れ出そうと扉へ向かう。 アウルオンからは引きずられる少年の背が、酷く小さく見えた。 「君は、君はその答えを聞けば、止まってくれるのか」 哀れみにも似た響きを持つそんな言葉に、少年は束の間立ち止まる。 そして、アウルオンの方へは顔も向けぬまま、ぼそりとか細い声が冷たい夜に落とされた。 「無理ですよ」 僕はもう、迷えない
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