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「…よし、今」
短く宣言したカルシンは突然、走り出した。
当然、予期していなかったスャムは引きずられる形になる。
ぐんぐんと神殿の重厚に閉ざされた裏門に近づいたカルシンは、スャムの首根っこを掴んだまま飛び上がった。
「ぐえっ」
首が絞まって情けない声が上がる。
何かに捕まろうと突き出した手が、虚しく宙をかいた。
スャムの反転した視界は、次の瞬間には汗ひとつないカルシンの顔を写した。
「よし、完璧や」
「何がだよ!」
やった、と爽快に笑ったカルシンに、スャムはここがどこかも忘れて食いついた。
「見られていたらどうする!
あんな大胆な…お前に慎重って言葉はねぇのか!」
「いや、見られてへんよ」
「は?」
察しの悪い奴とでも言いたげに、カルシンは首を振った。
「何のために歩き回ったと思ってんねん。お?」
そこでようやく、スャムの目に納得の色が浮かぶ。
「お前…」
神殿周りを歩き回り、自分たちからあらゆる視線が外れ、更には裏口の付近から見回り兵が移動するのを待っていたとでもいうのか。
いったいどれだけの集中力が、そして行動力が必要だと思っているのだ。
にわかには信じがたい、とスャムは顔を歪ませた。
「わかったんやったら、ええわ。さ、行くで」
つ、とカルシンは目を開き、空をのぞかせた。
〇〇〇〇
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