第5章 麻布十番の惨劇(前)

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「人間というのは悲しいものだな。わずか18年でこの様だ。だからあの時私の女になれと言ったんだ。そうすれば永遠の命が手に入ったものを。」 「我が夫ヨーゼフの仇。」  テレジアの顔は紅潮し、更にテーブルの上のカードが編隊で飛び出した。速射砲のように神島を狙う。 「それが目的か・・・。死んだ者を今でも愛しているとでも?」 「そうよ。あなたたちとは違う。ヨーゼフは私の大事な人だった。今でも同じよ。」 カードの何枚かが神島隆一の顔めがけて飛び出した。が、いとも簡単にそれを叩き落とす神島。カードには触れてもいない。 「だが、もともとお前は私の女だった。女にしてやったのも私だ。」 神島が語り出す。 「言うな!」 「私はまだはっきりと覚えているぞ。そう、私にとっては昨日のことのようだからな。」 にやにや笑い出す神島。 「言うなと言うに。」  カードの編隊が神島めがけて再び飛翔した。それを神島が指一本で撃墜する。だが、今度は一枚がすり抜け神島の頬を掠った。神島の頬に血が滲む。 「父の仇。」  テレジアは大きく息を吸うと再び呪文を唱える。残ったカードが順に空へ飛び出す。そして防衛線のカードの上下に列を作った。今や3列のタロット防衛線がまるで面のように神島とテレジアを隔てていた。 「小賢しい。」 神島が前に進み出る。と、カードの壁は後方へさがる。     
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