第5章 麻布十番の惨劇(前)

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「お前の怨念もこれまでだ。半世紀の因縁に決着を付けてやる。」  神島がとどめを刺すべくテレジアに迫る。そしてテーブルの前ゴブラン織りの敷物の上に乗った時、テレジアは床に這いつくばりながら神島が乗る敷物に意識を集中した。 「こ、これは。・・・計ったな。」  狼狽する神島。敷物で隠されていた床の魔法陣が発動した。それは激しいエネルギー波となって立ち上がりヴァンパイアを絡め取ってしまった。 「うぐぐ・・・。」 「アレクシス、今こそ夫の仇、父の仇、そして娘の血の浄化のため、おまえには消えて貰うぞ。」  テレジアが全ての意識を神島に集中する。魔法陣のエネルギーはヴァンパイアを縛り上げ、容積を狭めていく。 『このまま絞め殺してやる。』  テレジアのテレパシーの放射は隣室に隠れているマリーの頭の中にも大きな奔流となって入り込んでくる。まるで、母と一緒に戦っているような感覚だった。あと少し、あと少し、神島を絞め殺す。母テレジアの怨念がマリーの頭を満たしていく。 「俺を甘く見るな。」  あと一歩まで追い詰めたかに思えたところで、神島の反撃が始まった。神島の口元からは長い犬歯が覗いていた。身体全体から発する強力な放射は捕獲の魔法陣を徐々に緩めていく。 「死ね、アレクシス。」     
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