第3章 千里眼(前)

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「あ、田所さん。もう一つ思い出したことがあります。役に立つかどうか分かりませんが、穐本氏の話の中に六本木抗争の中心はヤクザでも半グレでも不良外人グループでもない別の存在がある。それは知的な集団で企業や大学を巻き込んだ経済研究会みたいな組織だと・・・。その顧問みたいなのが亀山会計事務所だと。まあ、当時も話半分に聞いていたんですが。我々も色々ツテはありますが、そんな話は聞いたことがなかったので。」 田所は電話を切ると六本木へと急いだ。  亀山会計事務所。小ぶりの金看板が掲げられた事務所は六本木ヒルズの裏手、開発から取り残されたような古びた雑居ビルの2階にあった。 「亀山さん。」  ドアを叩く田所。誰かいる。中で人の気配がした。しばらくするとドアが開いてスーツ姿の優男が顔を出した。 「亀山はあいにく出張中ですが。」 優男は入り口の盾になる形で田所の前に立った。 「事務所の方ですか?」 田所が警察手帳を提示して優男に問いかけた。 「警察の方・・・。はい、私は事務員をやってます。」 「お名前は?」 「佐々木祐一です。」 「佐々木祐一さん。ゆうはしめすへん?」 「あ、はいそうです。しめすへんに右の祐です。」 「所長さんは?」 「ええと・・・、一応所長は亀山聯司郎先生ですが・・・。」 どうも優男の歯切れが悪い。 「一応とは? どういうことです?」 「聯司郎先生は今は実質引退して福島に住んでいます。」 「では、どなたが?」 「息子さんの浩一郎先生です。」 「他に誰か?」 「いえ、先生と私の二人だけです。」 この優男の挙動がおかしかった。オドオドした何かを隠しているような態度。     
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