23人が本棚に入れています
本棚に追加
第1章 吸血鬼(前)
阿木、生澤の機捜201が通報のあった東光大学西新宿キャンパスに到着したのは午前0時を少し過ぎた頃だった。昼間の倦怠的な暑さは去ったものの、深夜でもコンクリートジャングルが放射する熱が依然地表を覆っている。クルマを降りると二人はまず蒸し暑さに顔をしかめた。
「何なんでしょうね、こんな夜中に大学で殺しって。」
阿木がホルスターの銃を無意識に押さえながら相棒の生澤に問いかける。
「知らんよ。俺は大学行ってないから。」
赤色灯を点けた車を見て警備員が駆け寄ってきた。
「通報した方?」
生澤が声を掛けた。
「警察の方ですか?」
警備員に連れて行かれたのは2号館と呼ばれる高層校舎の地下だった。
「こ、ここです。」
この中には二度と入るものか、そんな決意を目に警備員が指し示した。冷房が切れているらしく館内は熱気にむっとした。もう日付が変わっている。空調が切ってあっても当然と言えば当然だった。
阿木が女子トイレのドアを押す。
「そもそもこのフロアは何があるところなんですか?」
「え?」
質問の意味を理解していないのか、若い警備員は口ごもった。
「いえ、大学の何があるのかと?」
「印刷室です。」
「印刷室?」
最初のコメントを投稿しよう!