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「……綿あめ?」
「週末のイベントで綿あめ担当になったんだ」
綿あめに黒いテープみたいなものが散っている。
私は顔をしかめた。
「……なに、これ」
「海苔だよ、海苔。目鼻をつけて顔にするんだ。動物とかの」
目鼻には見えない、と笑いかけて気づく。
すごく読みづらいけど、海苔が文字になっていた。
「T、H、A、N、K ――THANK YOU?」
「……ホワイトデーだからな」
それだけ言って夫は洗面所に消えた。
「え、え、ホワイトデー……?」
あんなに欲しかったお返しは、実際にもらってみると気恥しい。
白いふわふわを指でつまんでみる。
さっきまで触っていた綿と同じ、優しい感触だ。口に含むと、しゅわっと溶けて消えた。
ほんのりした甘さに、幸せをじわっと感じる。
「しょうがない、来年もチョコを贈りますか」
お返しが欲しいなんて、もう言わない。
綿を育てていけばいつでも、この優しくて幸せな感覚を思い出せそうだから。(終)
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