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今日も、昼食をとると、出かけていった。商店街で週末やるイベントの準備だそうだ。
「……買い物でも行こうかな」
立ち上がったとき、玄関のチャイムが鳴った。
「これ、お土産」
お隣の奥さんがそう言って正方形の箱をくれた。
「ありが」
とう、と言いかけてやめる。
正方形の箱の中はチョコレートのように小さな枠に区切られているものの、入っているのは小さな綿、綿、綿……。
山陰にカニを食べに行き、立ち寄った先で手に入れたらしい。
奥さんは綿から数粒の種を取り出して見せると、「5月に植えて9月に収穫できるから! ずーっと綿が獲れるのよ。町内に綿づくりが広がったらすごくない?」と鼻息が荒い。
お隣さんがいなくなってから、教わった通りに種を取り出してみた。
意外と難しいけれど、ほわほわとした綿の手触りは気持ちいい。夢中で作業をしていたら、こんもりした綿の塊ができた。
「なんだ、それ」
帰宅した夫が困惑した顔で私を見る。
「お隣さんがくれたの。綿を育ててみないかって」
「ああ、そう……」
いつもなら、私の話などロクに聞かず、洗面所へ行ってしまう夫が突っ立ったままだ。
「どうかしたの?」
「……いや、これ」
商店街の名前付きのエコバッグから夫が取り出したのは、真っ白でフワフワの綿、ではなく――。
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