お返しはいらない

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お返しはいらない

 新聞を片付けていたら商店街のチラシが目にとまった。『ホワイトデー特集』でクッキーやキャンデー、ケーキやお饅頭などが掲載されている。 「ホワイトデーか……うちには関係ないよね」  結婚して35年。バレンタインデーには毎年チョコを贈り続けているが、お返しは一度もなし。「味見とか言って半分はおまえが食べてるだろ。その時点でお返ししてるようなもの」だそうだ。  正論過ぎて、ぐうの音も出ない。  そもそも、夫はそういう情緒とは無縁の人だ。  仕事最優先で、家事も育児も双方の両親の介護も、すべて私任せ。下の息子が去年結婚し、肩の荷も下りた。 「もうそろそろ、やめどきかなぁ」  バレンタインデーのつもりで呟いたのに、『熟年離婚』の文字が浮かんで焦る。  ないない! そんな面倒なことをするぐらいなら、好きなことに時間とエネルギーを使いたい。  と言っても、これまで家のことだけ必死でやってきたから、趣味がない。  好きなことも特にない。  時間を持て余している私と違って、夫は定年退職後、囲碁教室やカラオケ教室に通い始めた。そこで仲良くなった人たちと地域の活性化のためのボランティア活動を始め、毎日忙しくしている。     
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