俺たちのホワイトデー

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「なんだか、不思議だな」 「え?」 「初めてここで佐藤くんに会った時は、まさかこんなことになるなんて思わなかった」 「……」 「でもなんか今は、こうしているのが当たり前のような気がする」 「……はい、俺もです」 「あの時、佐藤くんが俺を引き止めてくれてよかった」 理人さんは照れくさそうにそう言って、ゆっくりと指を解いた。 白い山の上に佇んでいた赤い双子を親指と人差し指で摘まみ、ゆらゆらと揺らす。 しばらく愛おしそうに見つめていたかと思うと、ひょいっと食べた。 もごもご動く唇が綺麗な弧を描いていて、俺もなんとなく幸せな気分になる。 長いスプーンにバニラアイスを盛り口に含むと、舌の上ですぐに溶けた。 「あ、そうだ」 「ん?」 「帰ったら、試してみましょうか」 「なにを?」 「木瀬さんにもらった、お・と・な・の・オ・モ・チャ」 「なっ!?た、試すわけないだろ!」 とかなんとか言いながら、俺が〝お願い〟したらきっとまた理人さんは頷いてくれちゃうんだろうなあ。 それでもって、たぶんトロットロのベッタベタのドッロドロになるまで喘いじゃうんだろうなあ。 そんな自惚れたことを考えながら、アーモンド・アイをキラキラさせながらアイスを削る理人さんを見やる。 「理人さん」 「ん?」 「お誕生日おめでとうございます」 「……ありがとう」 「31歳の理人さんも、どうか俺を好きでいてください」 「ブッ、なんだそれ?」 理人さんは、ケラケラと声を上げて笑った。 今日からの一年が、理人さんにとって幸せなものとなりますように。 そしてどうか、その幸せな理人さんの隣にいるのが、俺でありますように。 fin
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