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だんだん日が長くなってきたからか、この時間でもまだうっすらと明るい。
平日の夜ということもあって、カフェの店内には空席が目立っていた。
入り口を潜ってすぐ、黒いカフェエプロンをつけたウェイターが駆け寄ってくる。
「いらっしゃいませ」
「予約した佐藤です」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
案内されたのは、店の一番奥のテーブル席だった。
椅子がそれぞれ一人がけのソファになっていて、見るからに座り心地が良さそうだ。
ウェイターはテーブルの上に乗っていた『予約席』と書かれたプレートを取り、一礼して戻っていった。
「注文しなくていいのか?」
理人さんが、メニューを探してキョロキョロする。
俺は少し笑ってから、ゆっくりと上着を脱いだ。
「予約した時にもう伝えてあるので、すぐ持ってきてもらえると思います」
「ふぅん?」
理人さんがソファにゆったりと背を預けた……と同時に、すぐに人の気配が近づいてくる。
「クリームソーダおふたつ、お持ちいたしました」
コトリ、と上品な音を立てて、それが木のテーブルに置かれた。
続いて同じものが俺の目の前にも置かれる。
いや、厳密に言うと俺のは少しだけ、違うんだけれど。
「ごゆっくりどうぞ」
ウェイターが浅いお辞儀をして去っていっても、理人さんはジッとグラスを睨んだまま動かない。
「理人さん?」
理人さんの長い指がゆっくりと動き、ドーム型のバニラアイスにちょこんと乗ったさくらんぼを指差した。
「これ……俺のだけ、双子のさくらんぼ」
まるで、幽霊でも見てしまったかように声がかすれている。
「佐藤くんが、頼んでくれたの……?」
「はい」
俺が頷くと、理人さんの唇がふるりと震えた。
正確には席を予約した時に、もしもあったら取っておいてほしい、と頼んだだけだけれど。
「大事な理人さんの誕生日だから、今夜は理人さんが好きなものを一緒に食べたいと思ったんです」
「……」
「でもさすがに夕飯これだけじゃアレですから、ほかになにか頼みますか?」
「……」
「理人さん?」
「……い」
「え?」
「キスしたい」
「いいですよ」
「……」
「プッ、冗談です」
俺は理人さんの左手に、自分の右手をそっと重ねた。
ピクリと強張った理人さんの指が、俺の手に絡みついてくる。
ぎゅっと握り合った手を見下ろしていた理人さんが、ふと微笑った。
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