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収穫祭で一騒動です!①
■プロローグ
ふと、自分の名前を呼ばれた気がして、エリナは振り返った。
収穫祭でごった返す人々の群れの向こうに、ぽつねんと佇む深い藍色の小さな天幕。
この喧騒の中、そんなところから声が聞こえてくるとも思えなかったが、エリナはその天幕が妙に気になって、そちらに足を向けた。
「お入りなさい」
天幕の前で立ち止まると、中から涼やかな女性の声が聞こえてきてドキリとする。
その声は、本当に自分にかけられたものなのだろうか?
だとしたら、どうやって天幕の中から自分が近づいてきたことがわかったのだろうか?
疑問に思いつつも、エリナは好奇心が抑えきれずに、入り口の垂れ幕に手をかけた。
すべての疑問は、ここを潜り抜けた先で解き明かされるに違いない。
「お邪魔しまーす……」
天幕の中は、中央上部から吊された小さな一つのランプで照らされていた。
その奥には天幕と同じ、深い藍色のローブに身を包んだ女性がいて、エリナを見て優しげに目を細めている。
口元は薄布に覆われていて見えなかったが、微笑んでいることはすぐにわかった。
「ようこそ。占い師ジェアの天幕へ」
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