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僕は一瞬ぽかんとしたけれど、羽奏のイニシャルをもじったくだらない嫌がらせだとすぐに分かった。
ずいぶんヒマな人達だな……
僕はそう思い、花瓶を掴んで手洗い場へ向かった。トイレットペーパーは、途中のゴミ箱に丸めて捨てた。
茎を持って花を取り出す。臭う水を捨てて、花瓶の中を軽く洗うと、新しい水に入れ替えた。茎についたぬるぬるを洗い流してやると、花は力なくその花弁を揺らした。
こんな嫌がらせに使われて、かわいそうに。
「もう大丈夫だよ」
そっとそう告げると、悲しげに俯いていた花たちが少し顔を上げた。
もう少し、時間が必要なだけだ。きっと教室の後ろに飾って、みんなに笑顔で見てもらえれば、また元気に咲いてくれるだろう。
「ちょ、やべえ!いまの聞いた?」
「マジでキモいんですけど!」
後ろで聞こえた声に振り返ると、羽奏と同じ制服を着た女生徒が二人、意地悪い笑みを浮かべて僕を見ていた。
「羽奏」を見ていた。
顔の擦り傷が、急にヒリヒリと痛み出す。
一昨日の体育の時間、この二人に後ろから押されて倒れ、運動靴で頭を踏まれた記憶が脳裏に蘇った。
顔が痛い。
胸が痛い。
お腹の上のあたりも、ギュウッと痛くなった。
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