僕のからだ

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 周りを見ると、予鈴が鳴った後で誰もいない。この二人もそれを分かっているのだろう。一人が僕の目の前に、すっと手のひらを突き出してきた。 「昨日のピアス、早く出しなよ」  目を細めて、ニヤニヤと笑っている。 「え、だってこいつ昨日、失敗してたじゃん」 「失敗しても、()ろうとした商品は全部、親が買いとらされんだよ。だからちゃんと、持って来たよね? あれ、私への誕生日プレゼントだもんね?」  途中から向けられた猫なで声に、吐き気がした。  冷や汗が吹き出して、羽奏の心臓が、ドキン、ドキンと波打つ。  お店に並んだ、キラキラしたアクセサリー。  震える手でピアスをホックから外し、言われたとおりに袖口に滑らせたこと。  お店を出るときに店員に鋭い声をかけられて感じた、死ぬほどの恐怖ーー  わかなの記憶が僕になだれ込んできて、めまいがした。脚がガクガクと震える。 「まさかあんた、親に取り上げられたとか言うんじゃないでしょうね?」 「ほら、出しなよ、早く!」  僕は突き出された腕を掴むと、右の拳を相手の鼻にめり込ませた。  彼女は声も上げず、勢いのまま僕の手を離れて後ろにふっ飛んだ。  驚いた顔で突っ立っているもう1人にも、振りかぶって横っ(つら)に拳をお見舞いする。 「ぎゃああぁぁーーっ!」 「うぁああぁぁーーっ!!」  廊下に、彼女たちの悲鳴が響き渡った。
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