37人が本棚に入れています
本棚に追加
ローテーブルにカップを二つ置くと、わかなの母親は二人がけのソファに腰を下ろした。人が隣に座った振動が、クッションを通して伝わる。
僕がカップのミルクティーに手を伸ばすと、
「まだ熱いわよ」
と言われた。自分は熱いまますすっているじゃないか、そう思って呟くと、
「20分で会社に戻らないといけないから」
と小さくため息をつく。
「ママのそういうところ、大嫌い」
僕は胸に湧き上がったわかなの気持ちを、そのまま口に出した。母親が不快そうに眉をひそめる。その口が開く前に、僕は続けた。
「ママが大好き」
母親が目を見張った。
「がんばって働いてくれてるの、わかってるよ? だからずぅっと我慢してきた。心配させたくなくて、がっかりされたくなくて、学校でのことも言えなかった。でもホントは、もっとちゃんと、ママに話を聞いてほしいのに……っ!」
話しかけると、いつだって「後にして」と言われる。いつも忙しいかスマホを見ているかで、じゃあいつなら話していいのかが分からない。
ママの新しい恋だって、応援してあげたいけど、自分との時間まで奪われるようで怖かった。
言葉にできずにわだかまっていたわかなの想いが、胸の中に渦を巻く。言い尽くせない気持ちが、涙になって溢れ出た。
最初のコメントを投稿しよう!