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驚いた顔をしていた母親は、スーツのポケットからスマホを取り出すと、どこかに電話をかけた。
「千葉です。はい、お陰様で。……それで、申し訳ありませんが、午後の会議には出席できません。……はい。夕方には戻りますので。ありがとうございます」
通話終了をタップすると、母親は羽奏に向き合った。
「とりあえず、2時間はあるわ。夕方にはどうしても一度戻らないといけないけど、夜でも、週末でも、いくらでも時間は取れるから」
そう言う彼女の目には、じわじわと涙が溜まっていった。
「ごめんね。……ごめんね、羽奏。ママ、全然、ちゃんとしたママじゃなかったね……」
母親は泣きながら羽奏を抱きしめた。
「羽奏が大好きよ」
久しぶりに感じる母親の温かさに、嵐のように吹き荒れていたわかなの心が、ゆっくりと鎮まるのを、僕は感じた。
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