僕とわかな

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 わかなは僕から手を離して立ち上がった。気が済んだわけじゃないことは、一層険しい顔になって冷たく僕を見下ろす彼女の目でわかった。  机の引き出しを開け、何かを取り出している。僕はドキドキした。心臓はないけれど。  わかながその手に持ってきたのは、銀色に光る裁ちバサミだった。  僕は戦慄した。 「わかな! ダメだよ! 僕を傷つけたらダメなんだよ!」  彼女は契約書を読んでいないのだろうか。  腕が取れたくらいなら、縫い直せる。契約者が故意に傷つけたのでなければ、まだセーフだ。でも、ハサミで切られたら、それはアウトだ。  僕は必死で叫んだ。 「わかな! わかな! お願い! 聞いて! 僕を傷つけたら、わかながーー」  その先を、言うことができなかった。どうせ言ったところで、彼女には届かなかったと思うけど。  ジャキン!  冷たい銀の(やいば)で、僕の頭は体から切り離れされた。  ジャキン! ジャキン! ジョキ、ジョキ、ビビッ……  わかなが取り憑かれたようにぬいぐるみの体を切り刻むのを、僕にはどうすることもできなかった。
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