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僕のからだ
「千葉、羽奏……ね。こういう字だったのか」
手のひらに乗せた生徒手帳を見て、僕は呟いた。高校2年生。僕をレンタルするお金は……貯めていたお年玉から払ったらしい。
わかなはちゃんと契約書を読まなかったみたいだ。僕を傷つけたら大変なことになると、ちゃんと書いてあったはずなのに。「羽奏」の脳内を探しても、そのへんのデータは見つからない。
僕はバラバラになったクマのぬいぐるみを、ゴミ箱に捨てた。中に仕込まれていたポプリや小さな天然石の欠片も、手でかき集めて一緒に捨てる。
ギクシャクして、なかなかスムーズに動けない。クマのときとは体の動かし方が違うのだ。スカートのせいか、足がスースーして落ち着かない。
でも、今日のうちに、人間の女の子の体に慣れておかなくちゃ。
明日も学校なんだから。
翌朝、いつもより少し早めに起きて、セーラー服を着た僕は、用意してあった簡単な朝食を食べて学校へ向かった。
いつもの道。いつもの電車。僕にとっては初めてのことばかりだけど、羽奏にとっての日常は、脳内にデータがあるから迷うことはない。
教室に入ると、たくさん並んだ同じ形の机が目に入る。その一つだけ、上に花が飾ってあった。前から4番目の、廊下から2列目。そこは羽奏の席のはずだ。
席に行くと、花を生けた花瓶の水がツンと臭う。花瓶の下にはトイレットペーパーの切れ端が挟まっていた。
WCはトイレのハナコさんになりました
成仏しろ
黒いペンでそう書いてある。
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