僕のこころ

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僕のこころ

 何度も深いため息をつきながら、わかなの母親がお湯を沸かす。仕事用のスーツ姿の背中を、僕はリビングのソファからじっと見つめた。  2日連続で仕事を早退させてしまったのだ。僕は普通の仕事をしたことがないからわからないけど、それはきっと大変なことなんだろう。  気の毒だな、とは思う。でも、彼女に全く責任がないわけじゃない。  クラスメイトを二人殴り倒した「羽奏」は、駆けつけた先生に腕を取られ、職員室へ連れていかれた。  別に逃げないのに、と僕は思った。  僕は職員室で泣いた。他の先生にも聞こえるように、大声で泣いた。そして、ずっとあの二人にいじめられていたこと、クラスの人は誰も助けてくれなかったことを泣きながら話した。  お弁当に虫を入れられたこと。バッグの中を水浸しにされたこと。クラス全員にチェーンメールを送らされたこと。  全部本当のことだ。  わかなの心を傷つけ、ぬいぐるみの「僕」に痛みを転嫁するほど追い詰めた、陰湿ないじめ。  誰にも言えず、救けを求めることもできず、へどろのように胸に溜まっていたわかなの悲しみは、僕が演技するまでもなく堰を切ったように溢れ出して。  連絡を受けて駆けつけた母親が職員室に入って来ても、「羽奏」は大声で泣き続けた。  校門の前に呼んだタクシーの中で、母親は一言も話さなかった。僕もさすがに泣き叫び疲れ、母親の肩に頭をもたせかけ、車の揺れに身を任せて少し眠った。
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