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無音
昔、聞いたことがあるんだ。
一般住宅からの通報で呼ばれた救急車が無音で帰る時は、搬送する相手が見ただけでもう生きていないと判る時だ、と。
急ぐ必要はもうないから、サイレンは鳴らさない。病院には向かうけれど、もう慌てる必要はない。
だから無音で走る救急車。でもそれ以外の意図で音を鳴らさないこともあるって、こっそり聞いた。
救急車のサイレンの音に反応し、寄ってくる何かがいる。そいらつはいつでも患者の死を願い、その魂を奪おうとうろついている。
その連中に気づかれないよう、あえて音を消して救急車は走る。中の人がもう亡くなっていることを悟られないために。
俺も、確かに聞いたけれど、誰から聞いたかすら覚えてないような、眉唾な話だよ。
でもやけに心に残っているから、無音で走っている救急車を見た時は。それが病院へ向かうものなのか消防車に帰るものなのかは判らなくても、心の中でこっそり祈るようにしてるんだ。
どうか無事に、そこに乗っている人の魂が奪われぬよう、目的につけますように、と。
無音…完
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