妻はクマ

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【みはる】 平成31年4月 地方メディア「平成も今月で終わりだって言うのに、なんでこんな熱が冷めきった町の取材なんかするんすか?ウチだけですよ、取材に来ているの」 ディレクター「まあ、そう言うな。あの矢吹という男、2年前に寂れたこの松井町を風鈴の響く町として全国的に有名にさせたんだよ。服役して戻ってきたら、今度はNPO法人を立ち上げた。また、何かやってくれんじゃねーかなと思うのよ」 伊達会長「えー、それでは、我々NPО法人 野生動物保護団体【みはる】の創立1周年を祝して、管理責任者の矢吹より皆様に一言ご挨拶を致します」 ちょうど1年前、伊達主任はクマによる死亡事故が起きて一気に注目されなくなった松井町にNPO法人を立ち上げ、今度は風鈴が響く町だけではなく、野生動物を積極的に保護する町として認識して貰えるよう動こうとしていた。私にもぜひ協力して欲しいと誘ってくれて、断る理由などなく、すぐに了承した。 矢吹「皆さん、今日はお集まりいただき本当にありがとうございます。ちょうど1年前、会長の伊達と2人でこのNPO法人を立ち上げて、あっという間の1年でしたが、今では会員の方も30人まで増やすことができました。まだまだ風鈴の町として注目していただいた時の様な知名度はありませんが、それでも一歩ずつ自分たちの力で、動物の保護を行えている喜びを実感しております」 三春、見てくれているかな?これが今の俺だよ。まだまだこれからだけど、いつかきっと、三春の仲間たちが安心して暮らしていける、そんな社会にしてみせる。 地方メディア「ちなみに法人名の【みはる】とはどういう意味でつけられたのですか?」 矢吹「はい。私の妻の名前です。妻は誰よりも純粋に野生動物たちが安心して暮らしていける社会になる様に全力でしたので、その意思を受け継いでこの名前に決めました」 地方メディア「そうだったのですね。ちなみに奥様は?」 伊達会長は私を見て、優しい顔でコクっと頷いた。 一度、窓の外を見た。この日、松井町は桜が満開に咲き誇っていて、それはまるで三春のように儚くも綺麗だった。私は自信を持って口を開いた。 矢吹「はい、妻はクマです」
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