妻はクマ

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新たな門出  出所したが、もちろん仕事は解雇され、私は0から今後の人生を考えなくてはいけなくなった。まずは、松井町に墓参りへ向かった。 梅の花の良い匂いがする。毎日通った職場までの道のりも、三春と入った山も、1年間の空白が空くと、別の視点から今まで気づかなかった新たな発見が出来るものなのかもしれない。身近な所に桜の木がたくさん植わっており、ピンクに色付き始めた桜のつぼみは春が近づいていることを物語っていた。 今井川で亡くなった隊員に花を手向けたあと、洞窟へ向かい、三春と紗希子さんに花を手向けた。 矢吹「三春、ようやく墓参りに来れたよ」 「矢吹君」 ふと後ろを振り返ると、そこには伊達主任が立っていた。 伊達主任「やはり君だったか。花を持って歩く人がいたから、まさかとは思ったけど」 矢吹「主任......この度は本当にお騒がせして申し訳ありませんでした」 私は深々と頭を下げた。 伊達主任「いや、君の手助けを充分にできなかった私にも責任がある。自分を責めないようにな。ところで、その花はここで亡くなった女性に対してだけではないんだろ?」 主任は何かを察しているようだった。 矢吹「はい。実は......」 主任は手のひらを私の顔に向け話しを遮り、おもむろに話し始めた。 伊達主任「矢吹君、もう1度この町のために協力してくれないか?」 矢吹「え?」 伊達主任「前に話した通り、私は今年の3月いっぱいで定年退職するんだ。でも、まだこの町のためにやり残したことがあるのじゃないかと考えてね」 矢吹「やり残したこと?」 伊達主任「そう思わせてくれたのは君と三春ちゃんのおかげだ。矢吹君、君だってやり残していると思っていることがあるはずだ。それに今の君ならきっとそれが出来る」 桜のつぼみはもうすぐ花開こうとしていた。
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