2.OLC

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「龍也! あきら!」  店に入ると、陸に呼ばれた。  正面、奥の座敷の襖が空いていて、首を伸ばした陸さんが見えた。 「なに、二人で来たのか?」 「いや、そこで会った」  不本意ながら、嘘をついた。  あきらは別々に行こうとしたが、俺は無理矢理に隣を歩いた。一緒に外を歩く機会(チャンス)なんてそうない。  あきらの言う『セフレ』になってから、肩を並べて歩くことすら出来なくなった。 『友達なんだから、一緒に遊びに行くことがあってもいいだろ』と誘う俺に、あきらは冷たく言い放つ。 『ヤる前はそんなことしなかったじゃない』  確かに。  セフレになる前は、こうしてOLCの集まりで会うだけだった。  俺とあきらは会費を千尋に渡して、空いている場所に座った。俺は陸さんの隣。あきらは千尋の隣。 「まずはビールでいいか?」と、陸さんが聞く。 「私、ウーロン茶で」と、さなえ。 「飲まないの?」と、あきらが聞いた。 「うん。大斗(だいと)が風邪気味で先に帰るかもしれなくて」 「最近寒いもんね」 「私もさっき、同じこと言った」と言って、千尋が笑った。 「んじゃ、ビール六つにウーロン茶一つな」  陸さんが部屋から顔を出し、店員に注文した。開けておいた襖を閉める。  店内が混みあってきて、乾杯から盛り上がる学生らしき若者の笑い声が響いた。 「大斗くんて保育園に行ってるんだっけ?」  麻衣さんが聞いた。 「うん。毎日じゃないけどね」 「そんな、都合よく通えるの?」 「うん。無認可だから、融通が利くの。きっちり時間と日数を決めて通ってる人もいれば、週ごとに申請して通ってる人もいるの」 「へぇ」  仕方がないとはいえ、子供の話になると過剰に反応してしまう。つい、あきらを見てしまった。  あきらは顔色を変えずに話を聞いていた。  俺が気にし過ぎているのはわかっている。  けれど、どうしても思ってしまう。  平気なように見えている『だけ』なのではないだろうか?  きっと、考え過ぎ。  あきらにとって『子供』の話が禁句(タブー)だと思っているのは、俺だけ。  あきらは仕事上、子供と関わっているし、それを苦に感じているようでもない。むしろ、使命感に溢れている。  放っておくと寝食をないがしろにして働く。休日も、俺が行って食事を作らなければ、一日に食パン一枚とカップ麺しか食べない時がある。  あきらは決して、料理が出来ないわけではない。やろうとしないだけ。  だから、やる気になるまで、俺が作っている。  せめて『友達』の時は――。
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