1.ルール

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「ねぇ、私、忙しいんだけど」  私はノートパソコンのディスプレイから目を離さずに言った。 「だから、飯を作りに来たんだろ」と、龍也(たつや)はジャケットを脱ぎ、シャツの腕をまくる。 「じゃあ、ご飯作ったら帰ってよ」 「うわ、冷てー」 「昨日は合コンだったんでしょ? いい子、いなかったの? 若い子揃いだって張り切ってたじゃない」  冷蔵庫を開ける龍也の背中を見ながら、言った。 「若けりゃいいってもんじゃないな」 「なに、それ」  龍也は自分が買って来た食品を冷蔵庫に入れ、入っていたいくつかの食材を出す。うちの冷蔵庫の中身は、私より彼の方が詳しい。 「なんかさぁ、あのノリに疲れちまって」 「やめてよ、おっさんみたいなこと言うの」 「お前こそどうなんだよ。前の男と別れて結構経つだろ」  トントントン、とリズミカルに包丁がまな板を叩く音がし始めた。 「誰と付き合っても、どうせ別れるんだし……」と、私は小声で言った。 「ん? 何だって?」 「仕事が忙しくて、それどころじゃないだけよ」  私はわざと音を立ててキーボードを叩いた。
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