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「課長は二人ともモテそうだし、言葉は悪いけど、どうしてわざわざ子持ちの年上なのか、わかんなくってさ」と言いながら、龍也が私の髪に触れた。
「けど、理屈じゃないんだよな」
くすぐるように、襟足をいじる。
「この人がいい、って思ったら、そうなんだよな」
龍也の手がゆっくりと移動してきて、私の耳朶を摘まむ。
「年上だとか、子持ちだとか、関係ないんだよな」
まるで、私に言い聞かせるように、穏やかな声。
「本気で好きになったら、そんなことは問題じゃないんだよ」
猫になった気分だ。
耳朶を触られて、私は目を閉じた。
龍也の手は、少しひんやりしていて気持ちいい。
「子供が産めるかどうかなんて、問題じゃないんだよ」
指先を耳朶に残し、龍也の掌が頬を包む。
「本気で好きだから、そんなことは問題じゃないんだよ」
私は静かに、深く息を吸い込んだ。
そうしないと、泣いてしまいそうで。
けれど、私はそんなに弱くない。
ゆっくりと目を開け、じっと龍也を見た。
「気持ちが変わることも、あるでしょ」
今は良くても、いつか後悔するかもしれない。
やっぱり、子供の産める女にしとけば良かった――って。
龍也は少し寂しそうに微笑んで、その顔はゆっくりと近づいてきて、互いの唇で繋がった。
「変わらない気持ちも、ある」
それを信じられたら、どんなに楽か。
私はキスを返し、枕を手放して行き場をなくした両腕で、龍也の肩を抱いた。
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