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コトリがぐらりと揺れる。
勢いに乗った身体がバランスを失う。
しかしそれだけだ。
廊下のときと同じく、驚くべき身体能力で立て直す。
――踏み留まった!
頭を突き出して突進する様は獣だ。
鉤爪のように怒らせた手指が、まっすぐ司へと伸ばされる。
その間一メートルだ。
たった一歩で決着してしまう。
反射的に身を引いた。
ビール缶を構え、爪の先で突き刺さった画鋲を外す。
細い穴から勢いよくビールが噴き出した。
「ぐっ!」
即席の目つぶしが顔面にヒットした。
コトリは顔を背けて腕で拭う。
炭酸は目に染みるだろうし、痛みを無視できたとしても、視界は極端に悪くなる。
脇に用意してあった布団をかぶせた。
あのコトリから猿のような悲鳴が上がる。
布団越しに押さえつけ、両手両足を無力化する。
そのまま布団で包み込むようにひっくり返す。
布団から出ていた首が激しく振られるも、身体の抵抗は弱まった。
聖一が協力してくれているのか。
奇声を上げる口にネクタイを丸めて突っ込む。
舌を噛ませないためだ。
コトリの命を盾にされてはたまらない。
次いで、圧し掛かったままコトリの上で方向転換した。
足の方を向き、床に置いてあった三本のベルトを拾う。
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