海士坂 司

180/193
前へ
/211ページ
次へ
 コトリがぐらりと揺れる。 勢いに乗った身体がバランスを失う。 しかしそれだけだ。 廊下のときと同じく、驚くべき身体能力で立て直す。  ――踏み留まった!  頭を突き出して突進する様は獣だ。 鉤爪のように怒らせた手指が、まっすぐ司へと伸ばされる。  その間一メートルだ。 たった一歩で決着してしまう。  反射的に身を引いた。 ビール缶を構え、爪の先で突き刺さった画鋲を外す。  細い穴から勢いよくビールが噴き出した。 「ぐっ!」  即席の目つぶしが顔面にヒットした。 コトリは顔を背けて腕で拭う。 炭酸は目に染みるだろうし、痛みを無視できたとしても、視界は極端に悪くなる。  脇に用意してあった布団をかぶせた。 あのコトリから猿のような悲鳴が上がる。 布団越しに押さえつけ、両手両足を無力化する。  そのまま布団で包み込むようにひっくり返す。 布団から出ていた首が激しく振られるも、身体の抵抗は弱まった。 聖一が協力してくれているのか。  奇声を上げる口にネクタイを丸めて突っ込む。 舌を噛ませないためだ。 コトリの命を盾にされてはたまらない。  次いで、圧し掛かったままコトリの上で方向転換した。 足の方を向き、床に置いてあった三本のベルトを拾う。     
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加