31人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
ここにいるのは、黒川のような明瞭な加害者ではないのだ。
――冷静でなければ。
正面に向き直る。
そして目を疑った。
全員が、司を見ていた。
ずらりと並ぶ六体のうち、四体には特徴があった。
どの人形も顔に生皮をかぶっている。
張りを失った肉仮面からはアスカのときと同じ臓物の臭いがした。
あるいは腐敗しつつある脂肪細胞の臭いなのかもしれない。
生川をかぶった男の人形は三体あった。
光を当てて順繰りに見る。
乾きかけてくすんだ肌もあれば、新鮮ながらも穴だらけのものもあった。
どちらも探していたものではない。
三体目の人形を見た瞬間、司はすぐに分かった。
「……聖一」
立ち姿はよく似ているけれど、やはり本物とは違った。
黒ではなく灰色の髪に、一回り小さな体躯、足もいささか短い。
それでもこの肌は聖一だった。
司と同じものでできていた、たったひとりの兄弟だ。
いとも容易く涙がこぼれる。
心を折るには充分だった。
聖一が何をしたのか。
父親譲りの優しさから少女を助けただけの弟が。
誘拐事件の罪悪感から心を閉ざし、誰とも交わろうとせずひっそりと暮らしてきた彼が。
ちゃんと話し合えていれば良かったのかもしれない。
いっそ責め立てた方が救えたのかも。
しかし今さら何を思おうと遅かった。
最初のコメントを投稿しよう!