あなたが眠っているうちに

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 最近夫が妙に優しい。  浮気でもしているのだろうか。  まあ、それについては私も人のことを言えない。 私は今、パート先で知り合った、10歳年下の青年にゾッコンだった。  彼と知り合ってから、夫と一緒のベッドでとなりあって眠るのが苦痛になった。夫はいびきをかくし、歯ぎしりもする。お腹も出ているし、見た目も完全にオヤジだ。  それに比べ、パート先の彼、名前は林君というのだけれど、超さわやかだ。  とてもじゃないけど、この恋をやめられそうにない。  午後7時になった。以前だったら、そろそろ夫の帰宅する時刻だ。でも最近は、9時をまわることも少なくない。  やっぱりこれは浮気だ。  私達夫婦は子どもがいない。暇があるから、さみしいから、ついつい浮気に走ってしまうのだろうか。  私はひとりで夕食をすませると、さっさと後片付けした。  シャワーを浴び、パジャマを着て、リビングルームでココアを飲みながら雑誌を開いていると、玄関の方からガタガタ音がした。夫が帰ってきたのだ。 「ノリちゃんただいまー」 「おかえり」  「あー今日も疲れた。あ、ノリちゃん、今日会社から帰る途中、コンビニによったんだけど、スイーツの棚に新商品が出てたんだ。ノリちゃんコンビニスイーツに目がないでしょ」  そう言って夫はコンビニの袋を私に差し出した。やっぱり、今日も、優しい。何だか少しお酒の匂いもする。浮気相手とお酒を飲んできたのか。  「ありがと、トシさん」  私はニッコリ笑って袋を受け取る。キッチンに行って、ラップをかけておいた夫の分の夕食を電子レンジに入れる。やがて温められた夕食がテーブルの上にならぶ。  「うん、うまい!」  夫は私の料理をほめながら箸をすすめている。  以前なら、絶対にこんな言葉、言わなかったのに。  夫は食事をすませると、自分で食器類を洗いはじめた。今までは、全部私に任せっきりだったのに。  「風呂行ってくるな」  「はい」  夫が浴室の方へ行ってしまうと、私は眠る準備を始めた。明日は週3回のパートの日だ。夫のとなりで眠るのは苦痛だが、しっかり睡眠をとらなければ。
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