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「僕の答は同じだ。僕は君を、女性として幸せにできない。妻も求めていない」
「分かっています。ですから私が先生の隣にいるには、これしかないと思ったんです」
「あいつは大いに、君との結婚に乗り気だよ。君は気立てもいいし、美人だと思う。それが一方的に言い寄ってきたんだ、息子が舞い上がるのも無理はないだろう。僕が君たちの結婚を認めようとしないのを、憤慨している。君が僕の元生徒だとも知らないしね。理由のない反対は許されない、古い家父長的価値観だ、今の時代にそぐわない、結婚は二人の意思によってのみ成立するべきだ――と、色々と騒いでいた」
「知らないということは、諸事極端になるということです。そう息まくのは、あの息子さんなら自然なことかと……」
先生は私の言葉を遮るように、ぴしゃりと言ってきた。
「相手の男を人間的に尊重できない女に、不幸な結婚を勧めるわけにはいかない」
しばらく、和室に沈黙が訪れた。
風鈴がちりちりと涼しく鳴る。
「先生。私、分かってました。先生がこのままでは絶対に認めてくれないだろうなってことは」
「僕の価値観に理解があるようで、助かる」
「だから、どうしたらいいか、私なりに考えて来たんです。そうして、思いつきました。先生は、決して――」
私は自分のお腹を、両手で軽く押さえた。
「……おい」
「――決して、堕ろせとも、一人で産めとも、言わないでしょう?」
庭からは鳥の声が聞こえる。
日曜の午後の町は、静かだった。先生の低く、長い嘆息が聞こえた。
「僕が確かめなくてはならないのは」
先生の声も静かだ。でも、掠れない。昔からそうだった。きっとこれからも。
「君の言っていることが、未遂なのか、そうでないのかだ」
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