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高校の映像研究会には、女子しかいなかった。そして、映像に興味のある部員もいなかった。
元々偏差値の高い学校ではない。それにしてもあまりにも分かりやすく、私の高校は荒れていた。
そして私は、自分が権力者になれるタイプでも、権力者に唯々諾々と従えるタイプでもなかった。
これらの結果、私は放課後になると、心身共に傷ついた状態で、空き教室の机によく突っ伏していた。
高校一年生の秋、その日は、化学準備室が私の避難場所に選ばれた。
部室に行く度に、ひどい目に遭う。けれど、だからといって部室に行かなくなるのは、何かに負けた気がして嫌だった。
そうすると自然発生的に、部室で小突きまわされた後に静かな教室で体の痛みが引くのを待つ、という生活習慣ができあがる。
冷たい机に腫れた頬を当てていると、いきなり化学準備室のドアが開いた。
「ん、何だ、一年の如月か。……どうしたその顔」
青樹先生は担任ではなく、私と顔を合わせるのは、先生の受け持ちである古典の授業の時だけだ。いかにも真面目そうな風貌なので、この時は、厄介な人に見つかった、と思った。
「青樹先生こそ、古典の先生が化学準備室に何の用ですか」
先生は私の言葉には答えずに、顔を覗き込んできた。
「如月は確か、映像研究会だろうが、これはメイクの類ではないな。誰に何をされたのか――訊いてもいいか?」
今思い返せば、この時私は、自分で思っていたよりもずっと弱っていたのかもしれない。
「……部の先輩で、二年の春日ってヒト。女だけど、空手やってるんですよね。私も結構頑張ったんですけど、全然敵わなくて」
「女子の殴り合いで、ここまでになるのは珍しいな」
「いつもは顔面は避けてくるんですけど、今日はたまたまいいのを入れられてしまって……」
「いつからだ?」
「一学期の終わりくらい。その時私粋がって突っかかったのに簡単に負けちゃって、それ以来なんていうか、私は部の中で『やっつけていい奴』になっちゃった……かな」
言いながら、次第に首がうなだれてくる。
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