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「よせ、如月!」
「おおおい!」
隆が叫びながら、私の手から鋏をもぎ取った。私は先生の方へ走ろうとして、隆に腕を掴まれた。
「放して! 嫌!」
全力で拒絶した私に、隆は一瞬無表情になり――……そして私の脇腹に、鋭い痛みが走った。
先生の拳が、隆の頬に打ち込まれるのを見てから、私は自分の体を見下ろした。左の脇腹に、剪定鋏の握りが見えている。まるで、私のお腹から生えているように。
そして改めて、凄まじい痛みがやってきた。体を支える糸がその鋏のせいで断線してしまったように、筋肉が緊張を失って、立っていられず、私は膝から崩れ落ちた。
先生が叫ぶのが聞こえた。
こんなに余裕のない声を聞くのは、初めてだった。
■
救急車の中で、先生が私に謝っている。
もう、何十回目だろう。
横たわっている私のすぐ隣で、先生が泣きそうな顔をしていた。
まだ病院に着かないのだろうか。ずっと着かなくてもいいけれど。
先生は警察も呼んでいた。隆は捕まるのかな。先生が悲しまないといい。私の――せいで。
「すみませんでした」
「いいや。君が、僕が絶対に許可しないと分かっている結婚を申し立ててくるなんていうのは、危ういとは分かっていたんだ。何かしらの事故の予兆としては充分だった。僕の方こそすまない」
頭を下げる先生を見て、前にもこんなことがあったと思い出した。でも、あの時とは違う。胸にこみ上げる想いは、あまりにも苦い。
人を巻き込むなんて、どうかしている。いや、どうかしているのは分かっていた。私は、依存の仕方すら間違えていた。それも――分かっていたのに。
「今日、これが……最後でいいです。先生に会うのは」
先生が、はっと私を見下ろした。
「でも、できるなら……お願いです。ずっとあそこに……先生の家にいてください。私がこれから、どこでどう生きて、何があっても……先生には、あそこにいて欲しい。今までそうだったみたいに」
「……善処するよ」
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