2.OLC

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「そういえば、麻衣。あれからどうだ?」  ジョッキ半分のビールを胃に溜めて、陸が聞いた。 「一度打ち合わせで会ったけど、何も言われなかった」と、麻衣。 「ホント、助かったよ」 「何の話だ?」と、大和が聞いた。 「それがさ――」  失礼します、と声が聞こえて、襖が開く。店員が料理を運んできた。  大根サラダとシーザーサラダ、焼き鳥のアラカルトと、チーズの盛り合わせ、フライドポテトと鶏の唐揚げ、たこわさ、エイヒレ……。  ひとまず、テーブルいっぱいに皿が並んだ。  陸がビールを注文する。  私とあきらはサラダを取り分けて麻衣とさなえに回し、麻衣とさなえは揚げ物を取り分けて回してくれた。 「――で? 麻衣がなんだって?」と、大和が途中になった話の続きを催促した。 「顧客に誘われて陸のホテルで食事したの」  麻衣が答えた。 「ちょっとしつこかったから、陸に助けてもらったってだけ」 「陸のホテルって高級(たか)いだろ!? そりゃ、男は期待するわ」 「金持ってんのねー」と、私は大根を噛みながら言った。 「好みじゃなかったの?」 「なんか……嫌な予感はしてたんだよね」と、麻衣が空笑いをした。 「もしかして、また?」 「……」 「麻衣ちゃん、何もされなかった!?」と、さなえが心配そうに聞く。 「大丈夫。レストランを出たところで陸に助けてもらったから」 「――ってか、なんでホテルで食事なんかしたのよ。下心ありありじゃない」 「人目があるし……。陸のホテルだったから、大丈夫かなと思って」  麻衣が、えへへ、と笑う。 「いや、大丈夫じゃないだろ」と、大和。 「そうだぞ。俺がいない時だったらどうすんだよ」 「そうなんだけどね?」 「なんかあったの?」と、あきらが聞いた。 「麻衣がそんなあからさまな誘いに乗るなんて、珍しいね」 「……後輩の……挑発に乗っちゃった感じ?」 「後輩?」 「前に言ってた、教育係してやってる奴?」 「そ。生意気なこと言うから、つい……」 「つい、じゃねーだろ。そんな挑発に乗って何かあっても自己責任だぞ」と、陸がきつめに言った。  陸と麻衣は同じ年だからか、大学時代から特別仲がいい。  陸は男運の悪い麻衣を特別心配しているし、麻衣も陸を信頼している。  いつか恋愛関係に発展するのではと思っていたけれど、そうならないまま陸は結婚した。 「とにかく! あの男とはもう会うなよ? ここだけの話、あいつはうちの常連だけど、女はいつも違うし、プロを呼んでることもあるらしい」 「プロ?」と、麻衣が聞いた。 「デリヘル嬢とか?」と、あきらも聞く。 「らしい」 「うわ、最低!」と、さなえ。 「麻衣、ダメだよ。二人きりになっちゃ」と、私。 「うん……」  麻衣が伏目がちに言った。  麻衣は容姿にコンプレックスを持っている。  童顔で背が低く、ぽっちゃり体形で、胸が大きい。初対面では、まず十歳は若く見られる。  そのせいで、大学時代から痴漢されたり、告白されて付き合った男に変態的なプレイを要求されたりして、怖い思いをしてきた。  男の視線が胸に集中するのが嫌で、襟の開いた服は着ない。一人で夜道は歩かない。防犯ブザーや催涙スプレーは必需品。
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