3935人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
「さなえ、チゲ雑炊シェアしない?」と、麻衣が言った。
「うん。食べたい」
麻衣がボタンを押して店員を呼ぶ。
「焼き鳥も頼んで。俺、食ってない」
「私、梅酒」
「ライムサワー」
「イカの一夜干し」
「みんな、自分で言って」
「大和、ご飯ものも食べなきゃ悪酔いするよ? ピザでいい?」
さなえが言った。
「ああ」と、大和が呟いた。
なにがあったんだか……。
付き合いが長いとはいえ、それぞれに抱えているもの全てを知っているわけではない。
偶然にも私はあきらの秘密を知り、あきらにも私の秘密を知られてしまったけれど、自分から言うつもりなんてなかった。
軽蔑されたくない――。
唯一、私が安らげるOLCを失いたくない。
集まって一時間半が過ぎた頃、さなえのスマホが鳴った。
「もしもし。……いいえ。…………わかりました。すぐに迎えに行きます。……はい。すみません。……はい。お願いします」
「母さん?」
電話を終えたさなえに、大和が聞いた。
「うん。大斗がぐずってるって。先に帰るね」
「俺も――」
「いいよ、大丈夫。お義母さんが家まで送ってくれるって」
さなえはバッグとジャケットを抱えて、立ち上がった。
「ごめんね、みんな。また、ね」
「気を付けてね」
「さなえ――」
見送ろうとして立ち上がろうとする大和の肩に手を置いて、さなえは阻止した。
「大和、飲み過ぎないでね」
「ああ」
「大斗くん、お大事にね」
「ありがとう」
さなえが後ろ手にキチッと襖を締めた。だから、みんな見送りに出るタイミングを逃してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!