3.仮面夫婦

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 俺の生家はもうない。  生まれ育った家は七年前に売られ、両親は父方の祖父母の面倒を見るために道外に引っ越した。  だから、実家といっても祖父母の家だし、帰ってもくつろげるわけでもなかった。 「ふぅん」と、千尋は気のない言葉を返した。 「結婚式はどこ?」 「岩手」 「美味しい冷麺食べたい」 「買って来てやるよ」 「いい。比呂がいない間に食べに行くから」 「うわ。冷てぇ」  俺は千尋の腕を掴み、引き寄せた。ベッドに膝をついた千尋の腰を抱き寄せ、キスをした。 「ちょ――」  千尋は俺の肩を押し退けようとしたが、そうはさせなかった。唇の隙間に舌を滑り込ませながら、数秒前に掛けたボタンを外していく。 「もうっ――! やめ――」  いつも、最初は抵抗する。  けれど、すぐに諦め、自ら俺の首に腕を回す。その瞬間が、好きだ。  それからの一時は、素直に俺を求めてくれる。 「千尋……」  シャツの隙間に顔を埋め、まだ少し汗ばむ肌を味わう。文字通り、期待に胸を膨らませて色ずく先端を避けて、舌を這わせ、吸いつく。 「ん――っ」  もどかしさに腰を揺らし、俺の腰に跨ると、千尋の足の間に硬くなったモノが納まった。前後に腰を揺らされると、擦れて気持ちいい。 「そんなに擦ったら、挿入(はい)るぞ?」  肩まである千尋の髪に頬をくすぐられて見上げると、勝ち誇ったような笑みが目に入った。  唇が重なった瞬間、下腹部の重みがなくなり、そう思ったら、強烈な熱を感じた。  勃ち上がったモノは咥え込まれ、最奥まで一気に押し込まれる。  さっきの余韻で緩んでいるかと思ったが、すでにきつくなっていた。  ゴムなしは、やはり違う。  直接千尋の熱を感じ、柔らかいけれど程よい締め付けに、じっとしていられない。  突き上げたくて腰を引くと、急に冷えた空気にさらされた。  千尋が腰を上げ、膝で立ち、俺を見下ろしている。
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