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「あなたたちは、まだ子供は作らないの?」
挙式と披露宴の合間に、お義母さんが聞いた。俺の両親もいる場で。
美幸の妹は、いわゆるデキ婚。
俺の母親から結婚式のことで電話があった時、同じように子供はまだかと聞かれた。妹が先に母親になることが、美幸の両親は少し心配らしい。
「子供は考えていません」
俺は、言った。
美幸が適当なことを言う前に。
「そうなの?」
その場の誰もが、驚いたようだ。
美幸だけが、ジロリと俺を睨みつけている。
化けの皮が剥がれかかってるぞ。
俺は心の中で、フッと笑った。
「今は、ってことでしょう?」と、俺の母親がフォローする。
そうなると、俺はそれ以上言えない。
何も知らない両親を悲しませたくはない。
「お互いに仕事が楽しいので」と、美幸が便乗した。
「そうなの。でも、仕事は子育ての後でも出来るんだし、出来るだけ若いうちに産んだ方がいいわよ」
美幸は三十四歳。
子供を産む年齢としては、もう若いとは言えない。
「わかってる。ちゃんと比呂と考えてるから」
美幸の面の皮の厚さには、吐き気がする。
結婚した時から、折に触れて子供のことは言われていたが、二年前までは本当に、流れに任せて出来たらいいと思っていた。
だから、嬉しかった。
本当に、嬉しかったんだ。
美幸が妊娠したと聞いた時は――。
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