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四年前。
俺と美幸もこんな風に結婚式を挙げた。
俺たちは両親の紹介で知り合った。両親の顔を立てるために何度か会うようになり、特に付き合わない理由もないからと、付き合い始めた。
結婚を急ぐつもりはなかったけれど、忙しい仕事の合間に会う手間を省くように一緒に暮らし始め、それが割としっくりきて、結婚することになった。
美幸は同業者で話も合ったし、料理も上手かった。俺も一人暮らしが長かったから家事は一通り出来たし、協力し合えていたと思う。
セックスに関しては、美幸は淡泊な方だった。あの頃の俺も、そう。
だから、美幸が妊娠した時は、思わず『いつデキた?』と考えたくらい。
美幸は生理不順だったから、妊娠がわかった時には既に四か月に入っていた。それで、納得した。その頃の俺と美幸の生活はすれ違っていて、最後にセックスしたのが三か月以上前だったから。
俺は舞い上がって、より一層仕事を頑張った。
美幸も喜んでいたけれど、三十を過ぎての初産な上に、元々生理不順で子供が出来にくいかもしれないと診断を受けていたこともあって、安定期に入るまでは両親にも職場にも知らせたくないと言った。俺が反対する理由はなかった。
一か月後。美幸の予感が的中し、流産した。
病院に駆け付けた俺は、医師の言葉に愕然とした。
『妊娠十三週。女のお子さんでした』
間違いじゃないかと聞きたかった。が、聞かなかった。
医師から渡された母子手帳に、はっきりと書かれていたから。
子供は、俺の子供じゃなかった。
美幸には結婚前から付き合っている男がいた。その男には妻と子供がいて、結婚は望めなかった。けれど、美幸はその男の子供が欲しかった。
だから、俺と結婚した。
最初から、美幸にとって俺は愛する男の子供を育てるための隠れ蓑だった。
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