3933人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
翌日、俺は美幸に記入済みの離婚届を渡した。が、美幸は俺の目の前で破り捨てた。
『両親を悲しませる必要はないわ。あなたはあなたで自由に遊んでいいのよ』と言って。
一時間後。
俺は家を出た。
「いい加減、俺を解放してくれ」
結婚式の後、部屋に戻った俺は言った。美幸はバスローブ姿でスマホを弄っていた。
「こんな茶番に付き合わされるのは、うんざりだ」
「どんな女性?」
「は?」
「付き合ってる女性がいるんでしょ?」と、美幸はスマホから目を離すこともなく、聞く。
「お前には――」
「適当に遊んでるだけ? あなた、モテるものね」
「ふざけるな!」
仮にも一度は愛して結婚した女が、スマホを弄りながら愛人について聞いてくるなんて、異様だ。『ランチは何を食べたの?』とでも聞いているよう。
「不倫相手と別れる気はない。だが、離婚もしない。そんな身勝手が許されると思っているのか!」
流産したのが俺の子供じゃないと分かった時、泣いて謝りでもされたらここまでこじれなかったろう。結果的にはやはり離婚だろうが。
だが、美幸は悪びれもせず、不倫相手とは絶対に別れないと言った。
それどころか、相手の男を『浮気相手』と言った俺に、『浮気相手はあなたよ。彼をそんな安っぽい呼び方しないで』とまで言った。
美幸が男なら、間違いなく殴っていた。
「大体、このままダブル不倫なんて続けて、お前と相手の男に未来なんてないだろ」と、俺は前髪を掻き上げた。
「……そうね」
「わかってるなら――」
「私たち、身体の相性は良かったわよね」
最初のコメントを投稿しよう!