3.仮面夫婦

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 時刻は二十二時四十分。  俺と一緒の時は寝かせる時間じゃないけれど、一人の時はどうだろう。  ――ってか、一人か?  美幸に影響されたのか、疑り深くなってしまう。  五回目の呼出し音(コール)の後に、気怠そうな千尋の声が聞こえた。 『もしもし?』 「寝てたか?」 『ん……。ソファでうとうとしてた』  千尋の部屋のソファは座椅子みたいに背が低くて、柔らかい。俺も良く、寝入ってしまいそうになる。 「千尋」 『ん……?』 「千尋」  んんんーーーっ、と伸びをする声が聞こえた。 「ベッドで寝ろよ。風邪ひくぞ」 『どうしたのよ』 「いや? お前の声が聞きたくなっただけだ」 『……奥さんとなんかあった?』 「……」  思い出したくもない。 「なぁ」 『なに?』  千尋の声が揺れている。恐らく、寝室に移動しているのだろう。  真っ裸で台所から寝室まで歩く千尋を、思い出した。下半身が疼く。 「お前は俺が妻と同じ部屋に泊まるの、何とも思わないのか?」 『……』  聞かなきゃ良かった。 「やっぱ――」 『――どう答えてほしいの?』 「え?」 『私に嫉妬させたいの?』  嫉妬……。  そうだ。  俺は千尋に嫉妬されたい。  嫉妬されるくらい、愛されたい。
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