6.決意

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 情けない。  美幸のことで妬かせて、会いに行かないことで焦らして、本音を引き出すつもりが、不安になったのも忍耐を強いられたのも、俺の方。  一人でいると、良からぬことばかり考えてしまう。  仕事の話だと分かっているのに、パーテーション越しに千尋と長谷部課長の声が聞こえると、気になって堪らなかった。  俺と別れて、長谷部課長ともう一度、なんてことには……。  いや、待て。  千尋は左手の薬指に指輪をしていなければ興味がないはず。  独身の長谷部課長は対象外だ。  ん?  だが、そもそも、どうして千尋は結婚指輪にこだわる?  千尋がなぜ、既婚者ばかりと関係を持つのか、聞いたことはなかった。 『指輪をしていない男には、感じないの』   そんなのは、俺を本気にさせないための方便だと思っていた。  だが、離婚間際の長谷部課長とも関係があったとなると、本当の事なのかもしれない。
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