6.決意

10/17
前へ
/346ページ
次へ
 結局、惚れたモン負けだ。  土曜日。  俺は千尋の部屋を訪れた。  千尋は寝惚けた顔で、けれど驚いてもいた。 「どうしたの?」  その問いに、俺は驚くほどショックを受けた。  俺には『何しに来たの』と聞こえた。  俺が突然押しかけると、千尋は呆れた顔でため息をつきながら、それでも仕方がないと言わんばかりにドアを大きく開けてくれた。  けれど、今日の千尋は、自分の身体がぴったりと納まる幅以上、ドアを開けなかった。  俺が入る隙間などないと、言われている気がした。  それでも、そのショックを表情に出さないだけのスキルはあって、俺はいつものように笑った。 「どうしたの、はお前だろ。今まで寝てたのか?」  開けてもらえないドアを、俺は自分でこじ開けた。 「昼飯買って来たから、食おーぜ」  時間は午前十一時二十分。  珍しくリビングが散らかっていた。  テーブルだけでなく、床にまで資料やカタログが散乱している。 「仕事、持ち帰ったのか?」 「うん」 「珍しいな」 「……うん」  千尋は小さく欠伸をして、その口を手で覆った。俺のパーカーは着ていない。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3967人が本棚に入れています
本棚に追加