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結局、惚れたモン負けだ。
土曜日。
俺は千尋の部屋を訪れた。
千尋は寝惚けた顔で、けれど驚いてもいた。
「どうしたの?」
その問いに、俺は驚くほどショックを受けた。
俺には『何しに来たの』と聞こえた。
俺が突然押しかけると、千尋は呆れた顔でため息をつきながら、それでも仕方がないと言わんばかりにドアを大きく開けてくれた。
けれど、今日の千尋は、自分の身体がぴったりと納まる幅以上、ドアを開けなかった。
俺が入る隙間などないと、言われている気がした。
それでも、そのショックを表情に出さないだけのスキルはあって、俺はいつものように笑った。
「どうしたの、はお前だろ。今まで寝てたのか?」
開けてもらえないドアを、俺は自分でこじ開けた。
「昼飯買って来たから、食おーぜ」
時間は午前十一時二十分。
珍しくリビングが散らかっていた。
テーブルだけでなく、床にまで資料やカタログが散乱している。
「仕事、持ち帰ったのか?」
「うん」
「珍しいな」
「……うん」
千尋は小さく欠伸をして、その口を手で覆った。俺のパーカーは着ていない。
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