6.決意

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「先方の希望とはいえ、俺は正直気に入らない」 「わかってる。てか、設計以前に無理があるのよ」 「例えば?」 「階段。嫁はリビングダイニングの柱を中心に木の螺旋がいいって言いだしたの」 「はぁ? そんなこと聞いてねーぞ」 「昨日言われたんだもの」  ソファの上の図面では、階段は玄関から見て右手、壁際に直線階段。玄関共有の上下分離タイプは玄関と階段を壁際に持って行くか、中央だとしたら左右に部屋を設けて独立させることが多い。  互いのプライバシーを守るためだ。  だが、嫁の言う螺旋階段を作るとなると、一階の和の雰囲気が壊される。しかも、現在の図面では、二階のリビングダイニングはフロアの中央に位置する。そのまま螺旋階段を作ると、一階のリビングに突き抜けてしまう。  設計の段階で、平然と無理難題を言う嫁に対して、俺も千尋も、不可能なものは不可能だと告げた。  耐震の問題からしても、ギリギリ。 「直進階段の下を収納にするってのはどうしたんだよ」 「ご両親はこの設計に満足頂いているのよ」 「嫁の螺旋案は知らないのか?」 「そうみたい」 「いやいや……」  面倒な客はいるが、ここまで訳の分からないのは珍しい。 「ご両親の階段下収納を諦めてもらって、この図面通りの場所に螺旋階段をって提案もしたんだけど、嫁はリビングに欲しいって言い張っちゃって」 「そりゃ、まずは家族会議からだな」 「だよね……」  それでも、何かいい案はないかと、千尋は夜遅くまで図面とカタログと睨めっこしていたのだろう。
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