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3.仮面夫婦
千尋が嫉妬なんてするはずないとわかっていた。
一年間、毎晩のように抱いても、千尋の本心は見えないまま。
一年間、毎晩のように抱いて、本気で愛したのは俺だけ。
それでも、少しは気にしてくれるんじゃないかなんて、子供染みた期待を込めて言った。
「来週、妻に会う」
俺が脱がせた白いシャツを素肌に着た千尋は、真っ裸よりも色っぽい。
「そ?」
振り返りもせずに、素っ気ない一言だけ。
相変わらず、可愛くない。
わかっていたけれど、少しは驚くなり、理由を聞くなりしてくれてもいいだろうに。
仕事をしている時は感情むき出しで活き活きとしているのに、俺といる時は感情の一切を隠している。
俺はというと、千尋とは逆で、会社ではデキる男を作っているけれど、千尋の前ではただの甘えたな男に成り下がっていた。
「いよいよ、離婚?」
「いや。妻の妹の結婚式に出なきゃなんねーんだよ」
ようやく振り向いた千尋は、眉間に皺を寄せて難しい顔。
「ぶっさいくな顔」と言って、俺は千尋の鼻を摘まんだ。
すぐさま、手を払いのけられる。
「ヨリを戻すなら、もう――」
「――んなわけねーだろ」
「じゃあ――」
「なんだよ。そんなに俺と別れたいのかよ!?」
目を逸らされ、腹が立つほどショックだった。
俺は腕を頭の下で組み、寝転がった。
「どっちの家族も別居を知らないからな」
「一年以上も別居してるのに?」
ここで驚くか。
この一年、妻に関して話したことはなかった。聞かれなかったし、言いたくもなかった。
「お互いに忙しいから、揃って実家に行くこともなかったしな。黙っていれば気づかれないもんだ」
「年末年始とかも?」
「ああ。あいつは一人で帰ってるみたいだけどな。俺はとにかく忙しくて予定が合わなかったってことになってるらしい」
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